日本の大企業はどこも、自社にどれだけのデータがあるかは答えられる。しかし、そのデータが何を意味しているのかを答えられる企業は、ほとんどない。
グローバルに事業を展開するメーカーで「いま海外にある在庫はどれくらいか」と尋ねてみる。答えは、誰に聞くかによって変わる。ある事業部は出荷した時点で在庫を数え、別の事業部は現地に着いた時点で数える。さらに別の部署は、また異なる日付で売上を計上する。どのシステムも、それぞれの前提では正しい。ところが並べてみると数字が合わず、誰かがExcelを開いて手作業で突き合わせることになる。
かつては、その「誰か」がボトルネックだった。いま、その役割を担いつつあるのはAIである。そして15年在籍しているベテランのアナリストとは違い、AIは「在庫」という言葉が三つの事業部で三つの意味を持つことを知らない。だから、推測で答える。
この課題を解くために生まれたのが、株式会社Quollio Technologiesである。
データはある。文脈がない。
この10年、日本企業はデータのクラウド移行に大きな投資を続けてきた。Snowflake、Databricks、BigQueryといったデータ基盤が、長年使われてきたERPと並び、その上にTableauやPower BIのダッシュボードが載っている。もはや保存場所は制約ではない。
制約は「理解」である。テーブルに何が入っているのか、誰が管理しているのか、その列はどう計算されたのか、信頼してよいのか、どのレポートに使われているのか。こうしたデータについての情報、すなわちメタデータは、多くの場合、人の頭の中か、散在するスプレッドシートの中にあり、あるいはどこにも存在しない。担当者が異動すれば、その知識も一緒に失われる。
長いあいだ、これは「コストのかかる不便」にすぎなかった。生成AIの時代に入り、それは経営課題へと変わった。大規模言語モデルは驚くほど優秀だが、与えられた文脈からしか推論できない。意味の分からない名前のテーブルが並ぶデータ基盤にAIエージェントを向ければ、AIは自ら作り出した定義の上に、自信に満ちた答えを組み立てる。つまり、企業のAIの品質は、企業のメタデータの品質で上限が決まる。
最初に課題に気づいたのは、監査の現場だった
Quollioの創業者たちは、この課題に最も純粋な形で出会っている。監査人としてである。
代表取締役社長CEOの松元亮太氏は大阪大学経済学部を卒業後、有限責任 あずさ監査法人(KPMG)で監査データ分析に従事し、全社的なデータ分析基盤の構築に携わった。共同創業者で取締役副社長COOの眞田貴央氏は早稲田大学大学院で応用物理学の修士課程を修了し、システムエンジニア、データ分析コンサルタントを経て、同じくKPMGでデータサイエンティストとして働いた。
監査とは、その数字を信頼してよいのかを問い、出どころまで遡る仕事である。二人が何度も直面したのは、難しいのは分析そのものではないという事実だった。分析を始める前に、そのデータが実際に何を意味しているのかを解き明かすことこそが難しかった。
二人は2021年8月、東京でQuollioを創業した。掲げるミッションは「世界中の情報と知を繋げ、人類の新たな価値創造を促進する。」タグラインは「データを繋ぎ、価値を紡ぐ。(Connect the dots. Weave values.)」である。現在は執行役員CTO兼VP of Productの田原義則氏がプロダクトを率い、社員の約45%をグローバル人材が占める組織へと成長している。
人とAIのための、ひとつのメタデータ基盤
Quollioが提供するQuollio Data Intelligence Cloudは、企業がメタデータを集め、整理し、ガバナンスを効かせるための単一の基盤である。Snowflake、Databricks、BigQuery、Redshift、Teradata、Tableau、Power BIなど、企業がすでに使っているシステムとつながり、すべてのデータが何であり、どこから来て、誰が責任を持つのかを示す共通のカタログを構築する。ガバナンス、データリネージ、データ品質も、別々のツールではなく同じ場所で扱える。
その特徴は、三つの設計思想にある。
第一に、日本企業の働き方に合わせて作られていること。画面、ワークフロー、サポートは日本の商習慣と日本語を前提に設計され、プロパティは企業ごとに設定できるため、技術的な定義だけでなく業務上の定義も記録できる。2026年3月に提供を開始した「Metadata Lifecycle Manager」などの新機能は、現場に過度な負担をかけずにメタデータを最新に保つという、実務的な目標に向けられている。
第二に、ベンダーニュートラルであること。Quollioは自社でデータウェアハウスやETL、BIツールを販売していない。そのため、特定の技術スタックへ顧客を誘導する理由がない。事業部ごとに異なる技術を選んできた大企業にとって、この中立性は大きな意味を持つ。
第三に、人だけでなくAIのためにも作られていること。Quollioは2026年8月、MCP(Model Context Protocol)サーバー機能を正式リリースした。Claude、Gemini CLI、Microsoft Copilot StudioなどのAIツールが、カタログのメタデータをリアルタイムで参照・更新できる。AIエージェントはクエリを実行する前にテーブルの意味を確認し、新しいデータソースの説明文を下書きしてデータスチュワードの承認に回し、使われていない資産をアーカイブ候補として示すことができる。カタログは、人がときどき参照するドキュメントから、AIが仕事をするたびに使う「文脈」へと変わる。
松元氏は、この変化を率直に語っている。2026年の年頭所感では、企業にとっての問いはもはやAIを「使うかどうか」ではなく、AIをどう評価し、どう信頼し、どこまで判断を委ねるのかに移ったと述べた。その答えとして、Quollioを「AIのための教科書」として再定義するという。AIが行動する前に学ぶ、信頼できる業務知識の体系である。
そこに至るまでの道のりを支えるため、Quollioは2026年2月にQuollio INTEGRALの提供を開始した。データとAIのガバナンス戦略の策定から、導入、メタデータの整備・拡充、さらにメタデータの有無でAIの回答品質がどれだけ変わるかを測るPoCまでを支援するプロフェッショナルサービスである。
PoCから本番運用へ
導入企業の顔ぶれが、この考え方の広がりを物語っている。QuollioはKDDI、博報堂テクノロジーズ、ENEOS、エプソン、富士薬品、インフォマート、ヤンマーなどで活用されている。
農業、建設、マリン、エネルギーの事業をグローバルに展開するヤンマーは、その分かりやすい例だ。事業部ごとに異なるシステムが動き、データ形式もばらばらで、一部のチームはExcelで手作業による突き合わせを行っていた。ヤンマーはグローバルなサプライチェーンマネジメントの高度化と、AIが解釈できるデータ基盤の構築に向けてQuollioを導入した。売上計上のタイミングや海外在庫といった区分の定義がメタデータとして記録され、先行して稼働した事業部では、アナリストが解釈の揺れなくPSI(生産・販売・在庫)分析を行えるようになった。選定の理由として、ヤンマーは国産ベンダーで直感的なUIであること、利用量に応じてコストが膨らまない明確な料金体系、AI連携のための豊富なAPI、そして企画から展開までの伴走支援を挙げている。
第三者の調査も同じ方向を示している。ITRが2026年1月に発行した『ITR Market View:DBMS/BI市場2026』によると、Quollioは国内データ・カタログ市場の売上金額シェアで2024年度に2位となり、2025年度も2位を維持する見込みである。さらに、製造業と情報通信業ではいずれも2025年度予測で1位を獲得している。
Quollioは、日本の企業ITの深部に届くパートナー網も築いてきた。2025年4月にはNTTデータとソリューションパートナー契約を締結し、AIエージェントによる業務のスピードと品質を高める手段としてメタデータを位置づけた。日本テラデータ、NEC、そして2026年10月には伊藤忠テクノソリューションズがこれに続いた。NECとは、dotDataで抽出した特徴量をビジネス上の意味とともにカタログで管理するコンテキストレイヤーの技術検証を完了している。
累計調達額は10億円を超え、2024年6月にはDNX Venturesをリードとする7.5億円のシリーズAラウンドを実施した。
Vertex Ventures Japanの視点
私たちがこの会社に惹かれた理由は三つある。
第一に、タイミングである。いま日本のあらゆる大企業が生成AIの活用を迫られ、そのほぼすべてが同じ壁に突き当たっている。AIは、理解できないデータを使えない。メタデータ管理はバックオフィスの整備作業から、企業AIの土台へと位置づけを変えた。そして市場がそこに到達したとき、Quollioはすでにその場所にいた。
第二に、日本市場との適合性である。グローバルなデータカタログ製品は存在する。しかし日本の大企業は、購買のプロセスも、業務の進め方も異なり、事業の定義を日本語で記録している。その現実を前提に最初から設計されたプロダクトと、NTTデータや伊藤忠テクノソリューションズを含むパートナー網には、容易に模倣できない構造的な優位性がある。
第三に、このプラットフォームの上に蓄積されていくものである。Quollioで業務の定義を記録する顧客は、自社が実際にどう動いているかを構造化された形で残していくことになる。AIエージェントがその記録を読み、書き込む機会が増えるほど、それは置き換えにくく、時間とともに価値を増す資産となる。
「AIの力は、与えられた文脈の質で決まります。Quollioは日本企業が信頼するメタデータ基盤を築き、いまそれをAIエージェントへと直接つなごうとしています。日本のデータをAI活用に耐えうるものへと変えていく松元さんとチームを支援できることを、誇りに思います。」
黒川 尚徳
ジェネラル・パートナー
Vertex Ventures Japan
Vertex Ventures Japanは、日本の難しい課題に挑み、世界に通用する事業を築く起業家を支援している。Quollioが向き合う課題は、日本だけのものではない。AIを信頼したいと考えるあらゆる市場のあらゆる企業は、まず自社の事業をAIに説明しなければならない。
Quollioは、その説明が書かれる場所になろうとしている。
Quollioの詳細はこちら:
https://quollio.com/jp

